2018/05/07

移住から半年が過ぎて


地元の林業を営む方から頂いた木に
これまた地元のカフェの店主さんに書いて
頂いた右肩上がりの表札
早いもので私達夫婦が兵庫県神崎郡神河町に移住して来て、はや半年が経とうとしています。
やっと極寒の冬を乗り越え、暖かな日差しが届くようになってきたこの町で、正直もう半年が過ぎたことに驚いていますが、少しずつ日々が充実してきたことを考えると、確かにそこには半年の月日があったのだなぁとも思います。

今日は今月5月26、27日に国立の美術館で行われる私たちの公演に向けてリハーサルをする中で感じたこと、そして神河町に来て半年が経って感じていることを文章にしてみようと思います。毎度のごとく、長文になる予感がしていますが、ご一読いただければ幸いです。

畑を二うね貸していただき人生初の耕運機

神河町に移住する前、私たち夫婦は東京の西国分寺に住んでいました。東京でありながら豊かな自然に囲まれた穏やかな街で、去年の今頃は近くの公園でカエルがたくさん見られたほどでした。

そんな都会の喧騒を離れた場所である国分寺、国立エリアには音楽家や芸術家が多く住んでおり、結婚する以前から西国分寺に住み始めた私たちはお互いの知り合いが繋がっていくこと、共通の友人のご近所さんができることの豊かさを感じていました。

今回の国立にある会員制の美術館、宇フォーラム美術館もそんな緩やかなつながりの中で出会った場所でした。私たちは東京を離れるにあたってこの出会いを完全に手放してしまうのは悲しいという思いもあり、緩やかにこの場とのつながりを残しておけないものか?と考え、今回のAllegory創作シリーズを始めました。

移住を決めたとき、もう東京で夫婦そろって発表の場を持つことは難しいだろうと思っていました。
しかし今になって私は、実は東京にいた方が、その機会は遠退いて行ったのではないかと感じています。機会や場所に恵まれていればいるほど、人は段々とそのことに慣れて来てしまいます。
二人で暮らしていることにも、段々と「あたりまえ」が付きまとって、いつの間にか特別さは薄れていってしまいます。
私達夫婦にとって、田舎暮らしというある種のクライシスが訪れたことによって、機会や場所の貴重さ、人とのつながりの尊さみたいなものが再確認されているような気がします。
そして誰に対して見てもらいたいのか?ということも、東京にいて漠然と作品を発表していたころに比べるとハッキリとしてきた気もします。
そしてそれは単に田舎暮らし始めたからということだけではなく、今までにお互いが機会と場所を必死で開拓してきたことや、ここ二、三年、海外で仕事をしてきたことも深くかかわっていると思います。
日本語が通じて、場所があって、人がいることは決して「あたりまえ」じゃない。そのことが私達夫婦の中に新たな創作の種を生んだ一つの要因だと感じています。

そういった意味で今回のAllegory創作シリーズは東京に残してきた私たちの創作の種であり、畑です。その芽がどのように開き、どんな花を咲かせるか、今のところ全く未知ですが、根気よく続けていけたらと思っています。

ところで、今私たちは神河町で有機農業教室に通い、畑を借りて作物を育て始めました。その中で思うのは豊かな土壌を育てることが何より大事だということ。長い時間をかけて土自体を育てていくことで、雑草の生えにくい土壌、作物の良く育つ土壌が生まれます。
東京にはそれこそ、様々な種類の豊かな土壌が、ありすぎるといっても良いほどあり、私はその恩恵を今までに沢山受けてきました。京都にも10年住んでいたので京都の土壌にも育てられてきました。逆に神河町には東京のような土壌はありません。しかし神河には神河でしか育たない作物がきっとあるはずで、私たちはその、まだ見ぬ土壌を耕し始めたばかりなのかもしれません。

話があちこち飛びますが、最近久しぶりに会った若いダンサーが「オファーが来なくなったらやめようと思う」という話をしてくれました。それはそれで潔いことです。
ただ、その話をされたとき、私の中に浮かんだ言葉は「やめるとは何か?」ということでした。「やめる」とは何かから「降りる」ことを指す場合もあるし新たなことに「乗り換え」ることもやめるの一部である気がします。
そういった意味で私は田舎に引っ越したことで東京の土壌から「降りた」のかもしれません。しかしそのおかげで逆に国立に新たな畑を持つことができました。
それがいいことなのかどうかは10年後ぐらいにわかるんじゃないかと思っています。
東京や京都で根を張って頑張ってきた同世代が活躍していく姿を見て、根を張ることの強さを感じ、自分はふらふらしてんなぁと感じることもあります。年相応の焦りも、もちろんあります。


しかし生きている限り日々、何かをやめて、何かに乗り換えて人は生きていくものだと思うのです。
実際この半年で私は東京行きの夜行バスに10回以上は乗ったり降りたりしていますし、6月にはダンサーとして東京の振付家の作品に出演したりしています。

じゃあいったい何をやめて、何に乗り換えたのか?案外それを決めるのは自分次第で、人はそんなこと対して気にしてない。今でも「京極」という名前のイメージから、私が京都にいると思っている人によく合いますし 笑
思えばずっと移動し、乗り換えてきました。それは機会と場所を求めてさまよう旅であったように感じます。それは様々なリスクと大きな不安を伴う旅でした。
しかし人生のパートナーを得た今、私の帰る場所は一つになりました。いわばパートナーが拠点といった感じです。パートナーが移動すればそれに伴い私も移動することになります。
その旅は相変わらずリスクと不安を伴う旅ではあるのですが、プラスになることのほうがマイナスより多い。と、今のところ感じています。
人とのつながりは倍に、出来ることはそれ以上に増えているからです。チーム戦になった分、チーム内での揉め事は絶えないのですが、、、。

そして移住して半年が過ぎた今、私の中で新たな思いが生まれてきました。
進路を踊りに定めてから10年が経って、改めて自分には何ができるのか?を考えた時、ずっと漠然としていたことや、目をそらしていたことが様々な成功と挫折の繰り返しの中で急にハッキリとしてきたように感じられています。出来る事と出来ない事。その両方を見つめることで、より出来ることに集中していく感じが、今の感じです。
そしてそのできることの一つが、神河町に自分たちの機会と場所を作り、それを県外に開くというアイデアです。具体的には稽古とレジデンスができるスタジオを開設したいと考えています。
神河町には豊かな自然と広い土地があります。その環境で自分達の創作を深めたり、レジデンスアーティストを受け入れる機会を作っていくことができればと考えています。それだけでなく自分たちの創作を深め、作品をリリースしていくことも考えていますが、まずは考えるだけでなく、なるべくこのアイデアを人に話してみることにしています。有言実行できるように。

絶えず機会と場所を求めて彷徨ってきたからこそ、拠点を持ち、運営していくことに今、興味を持ち始めたのだとも思います。海外のレジデンス施設をいくつか見てきたことも大きく関係していることと思います。
その中で強く感じていることは人と人のつながりが種を運び、やがて様々な場所に畑ができ、季節が来れば申し合わせたかのように花が咲き、実がなるということ。
冬の間、全くその気配を見せなかった我が家の庭の花々が、春になって申し合わせたかのように一斉に咲き始めたときは本当に驚きました。その種はどこからやって来て花を咲かせ、その実は風に運ばれ、どこへ行くのか?
拠点を持つということはそんなことに思いをはせながら、そこにいながらにして思いを旅させることなのではないかと思います。

実際そんなスタジオに適した場所が見つかるのか?見つかったとして、どうスタジオを運営していくのか?問題は山ほどあると思うのですが、時間をかけて旅の準備をしてみようと思い始めました。
そして今月、国立で行われる公演も、これらのアイデアと無縁ではなく、まさに「創作の種」を運ぶ、育てるといった過程を披露するものになると思います。
完成されたものではなく、まだ種だけれども今後に思いをはせられるもの、そして少しでも神河町で暮らし始めた私たちの思考と挑戦の日々を込められたらと思っています。
離れた場所でいかに花は咲き、実がなるのか?今になってやっと生活とダンスが同じ動線上に重なるのを感じています。
咲いた花がいかに綺麗か、なった実が何の役に立つか?そんなことにしか目がいかなかった時は、ダンスと生活はいつもギリギリに重く、きつく重なり合っていました。
今もそんな重なりから完全に自由になれたわけではありません。
しかし少しずつその重なり方は苦しい重なりではなく、呼気と吸気があって呼吸があるように、穏やかに重なっていける。そんな気がし始めているのです。

神河町は実は桜の名所だらけ!
なんだか隠居みたいな文章になってしまいましたが、実際、こんな気持ちになれているのは奥さんが日々地域おこし協力隊として働いているからであって、頭が上がりません。
今はまだ私は県外に出稼ぎ状態ですが、ゆくゆくはスタジオ開設に向けて、町に関わっていく仕事をしていければと思っています。

と、いうことで最後は宣伝になってしまいますが、5月26、27日はぜひ国立の美術館、宇フォーラム美術館へ是非お越し下さい。皆さんにお会いできるのを楽しみにさせていただきます。
とてもよくまとめていただいた、ステージナタリーさんの記事が以下のリンクから見られますので是非アクセスしてみてください。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
Allegory 創作シリーズvol.1「FuReRu」詳細
https://natalie.mu/stage/news/279595

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