2018/06/19

梅田宏明Somatic Field Projectを見て欲しい理由

約2週間後に迫った梅田宏明Somatic Field Projectの公演について、新宿へ向かうバスの中から、少し長く書きます。お時間ある時にご一読頂ければと思います。(公演情報は文末にあります)

城崎国際アートセンター合宿リハーサルより

今回私がダンサーとして出演する作品の振付家、梅田宏明さんは余りにも海外公演が多いので、拠点が日本ではないと思われている方が多いのですが、実は日本を拠点に、早くから若手育成の為のプロジェクトをされており、私が出会ったのは2015年。自身の文化庁のウィーン研修が終わり、海外のダンサーを振付する事の面白さや難しさ、日本と海外におけるアーティストの立ち位置の違いを肌で感じて来た直後でした。

私と梅田さんを引き合わせてくれたのは自身も梅田さんの作品にダンサーとして参加されていた、黒田なつ子さんでした。(今回、私が踊る作品は黒田さんが以前踊られた作品の改定再演なので、深い縁を感じています)
梅田さんのソロ作品を初めて映像で見た印象は「洗練されたビジュアルやシステムの中に生の体が放り込まれている」という感覚でした。あと、とにかく体の動きが速い。照明や映像の効果で速く見えるのではなく、実際にワークを受けて、生で見ても、その速さは変わらず、特に首の回転の速さには衝撃を受けました。
梅田宏明+Somatic Field Project 「1-resonance」 トレーラー
https://www.youtube.com/watch?v=flwhGtnQPyM

そんな出会いから、私が梅田さんのワークに通うようになった理由は幾つかあるのですが、その一つは「指示の明確さ」です。
ダンスって抽象的で感覚的なものと思われがちですが、高いレベルに行けば行く程、体への「具体な意識」が必要になって来ると私は思っていて、もちろん抽象的なもの、例えば劇場の雰囲気や、天候、あるいは霊感、人知を超えた「何か」みたいなものと密接に関わる場所に、踊りはあると思っている節は私自身もありますが、体に関して限界まで具体的に突き詰めた上で、そういう抽象性に言及したいというのが私の見解で、梅田さんのワークにおける「指示の明確さ」には数学者が数式で現象を解明するような、具体的な突き詰めの中で、人知を超えるものに手を伸ばす意識が強く感じられたのでした。これはあくまで私の見解ですが、この「具体性」への肉迫が、このメソッドが国境を超えてダンサーに響く要因である気がしています。

そしてもう一つはその「メソッドの有効性」です。先ほど紹介した黒田なつ子さんを始め、私が梅田さんのワークに参加した時には既に多くの素晴らしい「先輩」が既に梅田さんのメソッド「kinetic force method」を体得しており、実際にそのメソッドがダンサーに及ぼす影響を間近で感じる事ができました。
このメソッド自体、梅田さんが自身の身体を使い、長年かけて開発した「実感を伴ったメソッド」であり、その「実感」を鍛えたからこそ、ダンサーへのパスが洗練され、しっかりと受け継がれている事がわかります。
「教わっただけのものよりも、強く実感したものの方が人に伝わる」という事が、若輩ながら梅田さんと同じように、ソロからキャリアを始めた振付家の私にとって、希望を与えてくれているのは確かです。

そして、今まで出会った日本のコンテンポラリーダンスの振付家の中で、ここまで精度の高いパスが出せる人を私は知りませんでした。今までの私に「受ける精度」が足りなかったという事も事実かもしれませんが…

そしてその精度の高いパスを見事に受けて来た全員年下の「先輩」方を見て、当時30歳を過ぎた私が、ただ素直に「この人達のように上手くなりたい」と思えたのは、様々なバックグラウンドを持つ彼女達が、メソッドによって均一化されるのではなく、それぞれに違った形で発展しているからでした。
そして今回の作品にも参加する私と同時期にワークに参加し始めた同期達(こちらも全員歳下ですが)の成長の過程を間近で見られている事も私の背中を強く押してくれています。

そして最後の理由は以上に挙げたような事を梅田さん本人が長期に渡って行い、その成果を「待てる」人であること。
苦労して手に入れた物を、人は出し惜しむものですが、逆に梅田さんは惜しげも無くメソッドをオープンソース的に公開することによって明らかにメソッド自体を進化させていっています。

日本の振付家も、べつに出し惜しんでいるわけではなく、カンパニーを継続させる事が経済的にも精神的にも困難な日本の状況で、自分のカンパニーを育てることで精一杯で、中々培ったメソッド自体をカンパニー以外の人間に長期的にオープンにし、その効果を計ることは少ない気がします。

Somatic Field Projectはその名の通り「プロジェクト」であり「カンパニー」ではありません。
「カンパニー」とは本来自社の利益を最優先するものです。
しかし梅田さんの「プロジェクト」はダンサーを通してもう少し先、大げさに言えば「芸術に対する意識の変革」にまで視野が届いている気がしています。

その「変革」とはつまり日本人の芸術に対する意識の低さに対する変革です。私がウィーンにいて感じた事は「芸術が生活に必要不可欠なものであるという認識が日本人は極端に低い」という事。
この見解は私自身、海外に出なければ中々実感できなかった事でもあります。今までに様々な国を訪れましたが、ウィーンでは特にアーティストとしての「息のしやすさ」を感じました。アーティストは日常の意識を変革してくれる必要な存在であるという認識と尊敬を市井の人々から感じるし、その期待にしっかりとアーティストが応えている。そんな幸せな応答と、結果を急がず、その応答をしっかりと「待てる」文化がウィーンにはありました。

そんな「待つ」ということをアーティスト自身が忘れかけているのが今の日本の現状ではないだろうか?梅田さんの活動を通して、アーティストとは本来「変革を担う」存在であり、資本主義、市場経済とは違う時間軸で、じっくりと、一生をかけて「何かを待つ」ような生き物ではないだろうか?
そんなことを、若手たちと向き合っている梅田さんから感じています。

約2年半ワーククラスに通い、梅田さんの作品創作に関わるのは2回目ですが、最近やっと少しづつ梅田さんの言っている事が身体に伝わって来た気がします。何かを本当に獲得するには時間が必要で、成し遂げるには人生は短か過ぎるのかもしれません。
しかしそれを自身がじっくり「待てる」かどうかと、共に側で「待ってくれる」人がいるかどうかで、その獲得のスピードは変わる。
以前ふと「梅田さんにもっと若い時期から出会っていたら…」と思う事がありましたが、恐らく若い時期の私は、私自身を急いでおり、じっくり待てなかったと思うのです。だからこそ広い世界を垣間見て、ふと立ち止まったあの時、あのタイミングで、梅田さんという「共に待ってくれる人」に会ったからこそ今があるのだと思っています。

最後に、今回の梅田さんの公演について、面白いか面白く無いかはハッキリ言って人によって好みがあると思います。しかし梅田さんのこの試みに関してはダンサー、ダンスに関わる人、芸術に関心のある人、無い人、全てに知って欲しいと思っています。

そして先日までの城崎国際アートセンターでの10日間の合宿を通じて、より一層、参加ダンサー、マネージャーの努力と魅力を感じることが出来ました。
城崎国際アートセンター合宿リハーサルより

あまりダンサーの情報が表に出ていませんが、今回のダンサーはバレエ、新体操、ストリート、コンテンポラリー、様々なバックグラウンドを持つメンバーに加え、海外カンパニーを渡り歩いて来たメンバーも加わった不思議な座組みです。
みんな全然違うけど、ダンスへの情熱と純粋な心を持った素晴らしい奴らです。
みんな全然私より若いけれど(昭和生まれは私のみ!)尊敬し、誇りに思っています。彼女達が如何にメソッドを獲得し、発展させているか、是非生で見て欲しいと思います。
そして私自身、この公演が多くの人の心と身体に響くことを願って、もう後2週間、頑張りたいと思っています。

そして梅田さんの他にもう一人、しばらくの東京での単身赴任を許し、家で「待って」くれている奥さんに感謝しています。情けないほど色んな人を「待たせて」人は成長して行きます。だからこそ私もいつか、誰かをしっかりと「待てる」人になりたいと思っています。

公演のご予約はまだまだ受付中です。直接私にメッセージ頂いても構いません。返信は「待たせません」どうぞよろしくお願いいたします。
公演詳細
https://www.facebook.com/events/2125803634375830/?ti=icl

長文にお付き合い頂いた皆様にプラス情報として梅田さんが映像作家として参加されている六本木2121designsight企画展「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」の情報を載せておきます。
コーネリアスの小山田圭吾さんの音楽に複数の作家が挑むという必見の展示。是非ご覧下さい!
http://www.2121designsight.jp/program/audio_architecture/index.html

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

京極朋彦

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