振付家紹介も今回でラストです。
ラストを飾るのは、今回唯一、京都から参加の松尾恵美さんです!!
こうして今まで紹介してきた皆さんが、明日から劇場に集結すると思うと、ワクワクします!
皆様に劇場でお会いできるのを楽しみにしております!
松尾恵美さんは私の大学時代の後輩であり、今まで何度か、ダンサーとして京極朋彦ダンス企画の公演にも参加してくれました。
ダンサーとして様々な振付家の作品に出演し、キャリアを積んできた彼女は今回、初めて振付家として作品を作ります。
ダンサーと振付家とは、とても似ているようで、全く異なる職業です。私自身も、ダンサーとして出演する作品、自作自演のソロ作品、自分も踊る振付作品、自分が出ない作品と様々なパターンで作品を創作したことがありますが、やはりやる側と、見る側は決定的に違う景色を見ることになると思っています。
普通、集団で何かするときにはリーダーとメンバーが同じ方向に向かって足並みをそろえるのがセオリーですし、ダンサーと振付家もある程度そうする必要があり、皆が同じ景色を見ていたいと思うのは自然なことです。しかしそれだけが方法ではないというのも事実。
松尾さんが私の作品に出演してくれた時、ダンサー松尾恵美の見ている景色と、振付家である私の見ている景色はあまりにも違いました。
だからこそ生まれたものも多くありました。ダンスの生成方法は決して一つではないのです。その時から私は彼女が一体何を見ているのか?今までやる側の景色を見てきた松尾さんが、見る側に回った時、彼女の眼には何が映るのか?その景色を私は見てみたいと思うようになりました。
そして今回、予想外だったのは、松尾さん作品を作るにあたって、見たい景色の中に連れてきた、その登場人物達でした。
二人の屈強な男が、なんだかよくわからないルールの中で暴れまわっている。
これが松尾さんの見たい景色か!?と目を疑いました。それぞれがバラバラな方向に向かって、好き勝手に暴れまわっている、あるいは、じっとして動かないでいる。何ともシュール。
しかしよく見ればそこには、ダンスに対する鬱憤晴らしのような批評性と、剛腕で猥雑な祈りのようなものが隠されているように見えました。
「運動」と「ダンス」の違いから作品を立ち上げたい。と松尾さんは言います。ただその違いをあらわにするだけでなく、その違いの中に何を見出すことができるのか?それがタイトルの「Fit back ?」(戻りきることができるか?)にも込められていると言います。
そしてひたすら稽古していくうちにダンサーの今村達紀さん、塚原悠也さんの屈強な筋肉は、さらに屈強になっていき、さらには音プランというクレジットで参加している荒木優光さんが、突拍子もない音をかけたりする。稽古場は正にカオスでした。
正直、私は松尾組に関しては、本番直前まで変わっていくと考えています。もしかしたら本番明けてから、毎本番ごとに変わっていく事もありえるでしょう。現時点でレポートできることは、とにかく現場で見てもらわないことには何も語れないということ。それに尽きる気がしています。同時に、プロデューサーとして、それもまた、いいとも思っています。
そもそもKDCは若手振付家のチャレンジの場でもありますし、この時点でバラバラに見える登場人物たちのこの先を、この景色の先を振付家、松尾恵美さんと共に見てみたいと思うのです。
今回、松尾さんの作品が実現することになったのは、常々「作品を作ってみたらどうか」と私が言い続けてきたこととは別に、彼女自身が、踊る事についてふと立ち止まり、深く考え始めたことに端を発します。松尾さんも彼女自身の、その先を見てみたいと切に願っているのです。「今まで自分は踊る事しか考えてこなかった」と松尾さん本人も言っています。その彼女が作品を作るとはどういうことなのか?という問いに、立ち止まっています。
私は、松尾さんは生まれながらのダンサーだと思っているので、今回、様々な角度からダンスを見るという経験によって、今後の松尾さん自身の踊りは確実に変わっていくと思っています。
それは同時に優れたダンサーが誕生するということであり、優れた振付家が優れた作品を創作するために、必要不可欠な存在になっていくという事で、遠回りに見えるかもしれませんが、ダンスの発展に貢献していく事に変わりありません。
今回KDCが松尾さんのチャレンジの場として選んでもらえたことは喜ばしいことですし、そのチャレンジは企画自体の大きな推進力になっています。
事実、彼女のチャレンジに力を貸した屈強な男達と、それを実現しようとするスタッフは皆、松尾さんのチャレンジのその先の景色に向かって走り出しています。
完成されたものだけが人を動かすのではない。その完成に携わりたくなるような魅力が人を引き付けることもある。
ぜひ劇場で、この作品の先にある風景を目撃してください。
なぜなら、このチャレンジの一翼を担うのは観客の皆さん一人一人でもあるのです。
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